イギリスでは5月が選挙の季節で、昨年はスコットランドとウェールズの両議会選挙が行われたが、今年2008年統一地方選挙の「目玉」はロンドン市長選挙だ。つい最近、所得税の最低税率だった10%を廃止し、その分22%だった税率を20%に下げたブラウン首相だが、おおまかに言って年収5435ポンドから18500ポンドで子供がいない人たちにとっては増税となり、国内外の「貧困」問題に対処することを政策理念に掲げた首相の信条に反すると、労働党国会議員が大反発し、事実上撤回となり、求心力が急低下しているブラウン首相と労働党にとっては厳しい選挙戦となっている。5月1日の投票日を挟んでいろいろと書いていく。
2008年4月29日
ロンドンに住んでいるので、投票権がなくとも、公共交通機関などの生活面でいろいろと影響があるので、興味深く選挙戦を追っている。またイギリスという国のなかでのロンドン市長の立場は、日本における東京都知事よりも重要な存在だと言ってもいいと思う。政治的経済的に英国におけるロンドンへの一極集中は、大阪や名古屋といった他の大都市がある日本の東京一極集中より顕著だからだ。ロンドンに住んでいる人が投票するので、圏外に住んでいて、毎日ロンドンで働く人には、「千葉都民」が東京都知事選挙で投票できないのと同様に、選挙権がない。しかし、英連邦および欧州連合加盟国の国民にはロンドンに居住していれば投票権がある。事実上、3選を目指す労働党公認の Ken Livingstone 氏と保守党公認 Boris Johnson 氏の一騎打ちで、世論調査の結果をみたかぎり接戦である。労働党公認とは言っても、「新」労働党主流派ではない Livingstone 氏はスキャンダルもあり、苦戦しているが、一般的に所得の低いロンドン中心部や東部で集票している。一方の Johnson 氏も、自分で何を言っているのか本当に認識しているのだろうか、という迷言失言が多く政策も曖昧であまり政治家には向いていないような候補だ。彼は「ドーナッツ」作戦で比較的裕福なロンドン郊外で集中的に選挙戦を展開している。個人的に Livingstone 氏は3選目を狙わなくともいいのではと思うし、 Johnson 氏もあまりいい市長になるとは思えない。どちらかの候補を選択せよ、と言われたら、実績とより明確な政策を打ち出している Livingstone 氏のほうに軍配を上げる。
ロンドン以外の地方選挙だが、前回の選挙で議席減だったため、あまり労働党議員は残っていないので、議席増減という意味での惨敗にもほどがあるという見方がある。それよりも労働党にとって問題は得票率だろう。あまりにも低ければ首相の責任問題となりうるからだ。いくら地方選挙と国政選挙は違うと頭で理解していても、小選挙区で前回2005年の総選挙で辛勝した労働党国会議員にとっては労働党離れは死活問題だからだ。ブラウン首相では次回総選挙を戦えないという考える議員が増えるとブラウン政権は窮地に立たされることとなる。
2008年4月30日
さて大詰めを迎えた統一地方選挙でロンドン市長選挙は今もっても接戦の模様だ。ロンドンの有権者には3枚の投票用紙が渡される。ロンドン市長、ロンドン市議会小選挙区そしてロンドン市議会比例代表に投票するためだ。ロンドン市長選挙の投票用紙には立候補者の名前の右側に2つの欄があり、もっとも市長になってほしい人にまず1票、そして、その候補が落選した場合のため2番目になってほしい人に投票できることとなっている。つまり現実的には当選の可能性はないが、理想では市長になってほしい候補に投票しても『死票』にはならず、 Livingstone 氏か Johnson 氏のどちらかにこの2番目の票を入れることができるということだ。単純小選挙区制だと固定層に政治信条では近い浮動票を取り込むことによって当選できるが、このような方式だとできるだけ幅広い支持が必要となる。
2008年5月2日
ロンドン以外の地方選挙の結果は労働党が得票率は約24%となる模様で、自由民主党の25%よりも低くなった。また地盤とも言えるイングランド北部またウェールズで計333議席を減らし、混乱の続くブラウン政権にとってはかなりの痛手だろう。労働党の落選者は例えばイングランド北部の Wigan で4名、 Salford で6人あるいは Sunderland で5議員となっている。ウェールズも悲惨で、全議席改選で労働党は Cardiff で14、 Torfaen で16、そして Merthyr Tydfil では9議席と大幅な議席減となっている。また改選前の議席数が労働党43/保守党42/自由民主党32/その他3で改選議席数が40あった Birmingham では労働党は6議席減で保守党が6議席増となった。もしロンドン市長に保守党候補が選出された場合、労働党にとっては明るい材料が全くない状況になってしまう。なぜ悪いかというと、今回改選となったのは、イラク戦争でブレア前首相の人気が落ちてた2004年に争われた議席だからだ。これほどの負け方となると、国民からの不信任を突きつけられたブラウン政権の行方が危ぶまれる。自由民主党は前回獲得した議席を全体的に堅持したようだ。
ロンドン市長と市議会選挙も英国時間午後11時近くなってもまだ開票中で、予断は許さないが、保守党候補 Johnson 氏勝利が濃厚になっている。
日付が変わる直前に最終結果が発表され、 Johnson 氏の勝利となった。ロンドン陥落となり、労働党は完敗だ。さて、これから新市長の政治手腕はいかなものか、一抹の不安を感じながらも一人のロンドンの住人として今後注目することになる。