ロンドン日記

白ソーセージと白ビール

20年前の20代の私が現在の40代のおじさんの私を見たら、ひどく嘲笑うことだろう。飲み物に関すると、カフェインの摂取量をここ数年減らしている。若い頃の自分はデカフェのコーヒーや紅茶なんて本物のコーヒーや紅茶ではないと思っていたし、そもそもカフェイン摂取のためにコーヒーや紅茶を飲んでいた。20代ではあれだけがぶがぶコーヒー紅茶を飲んでよく夜眠れたものだ、と我ながら呆れながらも感心してしまう。街で友人とカフェで会ったりすれば別だが、基本在宅でコーヒーは朝の1杯だけ。その後は紅茶や緑茶。そして午後4時以降はデカフェの紅茶やハーブ・ティーを飲んでいる。夕方や夜になってもカフェイン入りのコーヒーや紅茶を飲むと寝付きが悪くなる。

数週間前、ひょんなことから、というか Amazon で安くなっていたので、微アルコールの白(小麦)ビール Erdinger Alkohol­frei を1箱買った。20代の私が見たら大笑いである。デカフェのコーヒー紅茶はまだしも、アルコールの入っていないビールなんて⋯⋯。時たま酒が飲みたくなるが、あまり強くはなく、夜も仕事や作業のために素面である必要があるし、独り暮らしで大量に呑みはじめたらろくなことはない。

アルコールが全くないわけではなく0.5%以下。買う前に興味が湧いたので少し調べたところ、原料が麦芽・ホップ・水・酵母に制限されているドイツ産の Rein­heits­gebot こと「ビール純粋令」に則ったビールだとアルコール度0はなかった。完全にアルコールの無いビールやドイツ以外のビールだと、原料として砂糖や異性化糖や人工甘味料などが記されていた。炭酸清涼飲料水は全く飲まないので、甘い飲み物はあまり欲さないし、アルコールがなくても砂糖や異性化糖や人工甘味料が入っていれば、アルコールという「毒」を砂糖や異性化糖や人工甘味料に置き換えただけだ。

普通のビールだと酔うだけではなく太る。家族とビデオ通話をすれば、太っただの顔が丸くなっただの、散々虚仮にされる。無念だが顔だけではなく腹も丸くなっている。微アルコール Erdinger Alkohol­frei は100㎖あたり25キロカロリー。通常の白ビール Erdinger Weiß­bier だと100㎖あたり44キロカロリー。結構な差。

肝心な味だが、ビールの芳醇さというか口当たりの重厚さというか奥深さはなく、やや軽く薄く水っぽい。発泡酒に近いとでも表現できるだろうか。アルコールだけが微量で、それ以外はビールと全く同じの味を求めるのであれば、残念に思うかもしれないが、ビールのようでビールでない、ビールとは別の飲み物という考え方であれば、飲みやすくすっきりとした味わいで美味い。暑い季節にはもってこいだろう。

缶に印刷されている情報を読むと、微アルコールであることの他に、葉酸(ビタミンB)とビタミンB12が多く含まれていることが強調されている。500㎖缶には、葉酸の1日の摂取推奨量の50%、ビタミンB12の26%が入っているらしい。葉酸は多くの食品に含まれていて、ビタミンB12は貝・海藻・レバーなどに多い。貝類や海苔やわかめをよく食べる日本ではあまり不足しないだろうが、ヨーロッパの食生活では不足がちになるのだろうか。

ビールを買った数日後、格安スーパー Lidl で消費期限が迫っていた Weiß­wurst つまり白ソーセージが、見切りで安くなっていた。ドイツ・バイエルン州、特にミュンヘンのソーセージとして有名。正午前に甘いマスタードをつけて、バイエルンでは Brezn と呼ばれるプレッツェルと白ビールと一緒に食べるのが流儀。もともと保存食ではなく、足が早い食べ物だったので、冷蔵庫の無い時代には、早朝に作られて午前中に食されていたという。

さすがに空きっ腹の朝っぱらから普通の白ビールを飲むわけにはいかないが、微アルコールならば⋯⋯とジョッキを片手に、翌日朝食でも昼食でもないが両方を兼ねたブランチとして白ソーセージを早速食べた。プレッツェルは買い忘れた。

ジョッキは十数年前にミュンヘンに行ったときに買ったもの。奥の棚から引っ張り出した。あまり使っていないし、いつそうなったかは覚えていないが、少し欠けている。甘いマスタードがやはり特徴的。もしまたミュンヘンで食べる機会があれば嬉しいが、その時は微アルコールではなく普通の白ビールを選ぶだろう。