The News of the World 廃刊

ここ数年燻り続けた英国の日曜紙 The News of the World 紙の電話盗聴疑惑が一挙に発覚した。この盗聴は主に他人の携帯電話の留守番メッセージに残された伝言を盗み聞きした行為。これまでは、個人による犯罪行為であって、組織ぐるみの犯罪ではなかったとした。しかし、多くの人々の電話が盗聴されていて、編集部や記者が認知あるいは関与していた可能性も高まってきた。また、電話盗聴疑惑の他にも刑事捜査に関する情報を得るために、警察官に謝礼を払ったこと、つまりは買収していたことが判明している。

これまで盗聴されていたことが明らかになったのは政治家や芸能人など著名な人々であった。しかし、盗聴の被害者は事件や事故に巻き込まれた人々にも及んでいたことが判明。例えばこの新聞が雇った私立探偵は、2002年に誘拐そして殺害された Milly Dowler さんの携帯電話の留守番メッセージを盗聴し、心配して伝言を残す人が増え容量の上限に達したため、記録されていたメッセージを勝手に消去した。家族は Dowler さんがメッセージを消去したと思い、これを生存の証だと考え、一縷の望みを持ったことになった。The News of the World 紙は盗聴された情報をもとにした記事を掲載した。Dowler さん事件以外にも、2005年7月7日のロンドンで起きたテロ事件の被害者の電話が盗聴されたり、イラクやアフガニスタンで戦死した英兵と遺族の電子メールが盗み読みされたり、電話が盗聴されたいたと報道されている。

新聞メディアと持ちつ持たれつの関係にある政治家や芸能人の電話盗聴に関しては、違法であったとしても多くの英国民は特に関心を持たなかった。英国民の多くはジャーナリストも政治家も信用に値したいと思っているし、また芸能人なしに新聞はなく、新聞なしに芸能人はなしという考えが強い。またこのような行為はこの新聞社に限ったことではないとも言われ、The Guardian 紙を除けばこのような盗聴に関してあまり報道しなかった。しかし、このように被害者や被害者の家族を標的とした卑劣な行為に怒りは爆発した。

次から次に明るみに出る疑惑。そして広告出稿を取りやめる企業も続出。168年の歴史を誇る新聞だったが、メディア王 Rupert Murdoch 氏の鶴の一声だろうか、The News of the World 紙の廃刊が決定し、2011年7月10日付が最終号となる。劇的ではあるが、廃刊はトカゲの尻尾切りに過ぎないという意見も多い。日刊紙の The Sun の日曜日版を発行するのではないかという臆測もある。つまりは看板の架け替え。また廃刊をもってこの盗聴疑惑の幕引きを狙っているのではないかという疑いも強い。現在 The News of the World 紙の親会社の News Corp はテレビ会社の BSkyB の完全買収を計画中であり、この疑惑によってその計画が頓挫することを最も恐れているという考え。

怒りの矛先と疑惑の目は警察にも向けられている。2006年に行われた調査で多くの情報を確保しながらも、結局、私立探偵のみが起訴され、有罪判決が下され、服役した。どうみても組織ぐるみの犯罪行為だったのをみすみす見過ごしたのか、これから詳しい説明を余儀なくされるだろう。また買収されていた警察官がいたことは刑事問題に発展しそうだ。

警察による通常の刑事捜査の他にも「公開審問」とも訳される public inquiry を求める声が強まっている。委員は政府によって任命され、関係者から事情を聴取し、報告書を纏める。この場合、裁判官を委員長とし、法廷のように関係者は虚偽の供述を行えば偽証罪に問われる審問が必要だという意見が根強い。

電話盗聴、警察官買収などの犯罪行為はこの新聞に限ったことだろうか。英国の新聞メディア、特にタブロイド紙の暗部がこれから明らかになるかもしれない。政治家は新聞メディアを恐れて何もせず、新聞は犯罪行為に走り、取り締まる立場にある警察は動かなかった。英国民の多くはやり場のない怒りを感じているようだ。

ちなみに英国には月曜日から土曜日に毎日発行される日刊紙と日曜紙が存在する。これは高級紙と大衆紙両タイプの新聞に当てはまる。日曜紙は同じ会社の傘下にあったとしても、編集部も記者も別々。そして内容の量も半端ではない。そのため、日曜紙を買って、数日かけて読む人もいる。日曜紙は調査報道を売りにすることが多いが、タブロイドの日曜紙は日本の週刊誌に近いだろうか。