英国総選挙2015 | 次期政権は⋯⋯?

ネパール大地震という非常に痛ましいニュース、そしてケンブリッジ公爵夫妻第2子誕生という明るいニュースがあったためだろうか、明後日2015年5月7日(木曜日)に総選挙の投票を控えているというのに、英国では緊迫感というか盛り上がりに欠けているような雰囲気が漂う。それも、結果は予想しがたく、傍目から見て、非常に興味深い総選挙なのに。本題に入る前に、本稿では今後、一般的に日本語で「イギリス」あるいは「英国」と呼ばれる国を意味する場合に、「連合王国」を用いることを明確にしたい。

世論調査に基づく大方の予想では、全国的に最大与党の保守党と最大野党の労働党の支持率がほぼ拮抗していて、議席数では保守党やや有利という情勢。保守党は前回2010年総選挙時より議席を減らし、労働党は増やすことになりそう。ただし、保守党も労働党も連合王国庶民院(下院)定数650の絶対多数である326議席には遠く届かず、300議席以下に留まると予測されている。ちなみに、北アイルランドのシン・フェイン党は、連合王国議会選挙で議席を獲得しても、女王への宣誓を拒否する立場から登院することはないので、実質的絶対多数は326より少ない。

保守党と連立を組んでいた自由民主党は、議席半減が予想されるという厳しい選挙戦となっている。その一方、大躍進するのがSNP・スコットランド国民党。昨年のスコットランド独立を問う住民投票で「負けた」はずなのに、それ以来支持率をどんどん伸ばしてきて、スコットランドにおける連合王国議会59議席の大多数で勝利を収める勢い。住民投票でスコットランド独立に賛成票を投じたのは約45%。この賛成派全員がスコットランド国民党支持者というわけではないが、それでも多くはスコットランド国民党に投票するだろうか。賛成・反対という二者択一の住民投票で、他の主要政党の保守党・労働党・自由民主党は一致してスコットランド独立を阻止したが、今回の総選挙ではそれぞれ候補者を擁しているので、独立反対派の票が割れる。第2位の候補者よりも1票でも多く獲得すれば当選する単純小選挙区制にて、45%の得票率であれば、大抵の場合、勝つだろう。2015年4月2日に行われた7党首テレビ討論(与党の保守党と自由民主党、野党の労働党・英国独立党・スコットランド国民党・ウェールズ党・緑の党)と2015年4月16日に行われた5野党党首テレビ討論で、スコットランド議会で絶対多数を占めてスコットランド国民党党首にてスコットランド首相であるスタージョン氏が非常に好印象を残したのが追い風となっている。

保守党あるいは労働党による単独絶対多数の可能性は、世論調査を見る限り、ほぼゼロに等しい。そのため、現連合王国首相で保守党党首キャメロン氏あるいは労働党党首ミリバンド氏が次期首相となるには、できるだけ多くの議席を得て、他の党と連立を組むか、あるいは少数政権を運営することになる。保守党と労働党の議席数にもよるが、自由民主党の議席半減という状態では、保守党+自由民主党あるいは労働党+自由民主党という「政治的に可能」な連立は絶対多数に届かない。数の上では可能となるかもしれない保守党+スコットランド国民党は政治的にありえない。労働党+スコットランド国民党という可能性も、現在のところ、下記のように否定されている。

ここで重要なのは、保守党政権に対して不信任を突きつける反保守党勢力が絶対多数を占めるかどうかにあるだろう。総選挙後、自由民主党以上の議席で庶民院3番目の勢力となると予測されているスコットランド国民党は、保守党を政権から追い出すことを掲げている。そのため、保守党が最大勢力となったとしても、あるいは自由民主党や北アイルランドの民主統一党(DUP)または連合王国独立党(UKIP)などと合わせても、過半数に届かず、逆に労働党+スコットランド国民党が絶対多数を占めれば、キャメロン氏の首相続行は難しくなるだろう。だからと言って、すんなりミリバンド氏が首相になって、安定した政権運営ができるというわけでもない。労働党はスコットランド国民党との連立の可能性を完全否定しているし、閣外協力に関しても否定的である。スコットランド国民党も保守党憎しだが、だからと言って労働党政権を無条件で支持するわけでもない。もし保守党が最大勢力であるのに、キャメロン氏が信任を得られず、労働党少数政権となった場合、労働党は相対多数を得るために、自由民主党やスコットランド国民党の協力を得る必要があるだろう。労働党が最大勢力となったとしても、もし自由民主党が保守党同様に反対する野党の立場になれば、労働党はスコットランド国民党の協力を要する。それも棄権というような消極的な不支持ではない支持ではなく、労働党に賛成する積極的な支持が必要である。

また今回の総選挙で重要となりうるのが、非対称的分権と表現すればよいだろうか、現在の連合王国のかなり歪な政体。連合王国議会は650選挙区から成る。そのうち、スコットランド59区・ウェールズ40区・北アイルランド18区で、残りの533区はイングランドにある。そして、スコットランド・ウェールズ・北アイルランドには、それぞれ異なる権限を持つ議会が存在する。しかし、イングランドにはない。そのため、連合王国政府・議会がイングランド政府・議会の役割も果たしている。この二重構造は、連合王国全体における多数と、イングランドにおける多数が一致すれば、実質上問題はない。だが、イングランド533選挙区の過半数となる267区で保守党が勝利を収めて、なお連合王国全体で見れば労働党の少数政権発足というシナリオもありうる。スコットランド・ウェールズ・北アイルランドに移譲された事柄の立法に、スコットランド・ウェールズ・北アイルランドの連合王国議会選挙区選出の議員は、関わることはできない。なぜならば、スコットランド議会・ウェールズ議会・北アイルランド議会の議員にその権限があるから。その一方、イングランド議会は存在しないため、スコットランド・ウェールズ・北アイルランドの選挙区から選出された連合王国議会議員は、スコットランド・ウェールズ・北アイルランドでは各議会に移譲された事柄の立法に関わることができないのに、イングランドのみに関する事柄の立法に関わることができる。つまり、イングランドの選挙区では絶対多数を擁する保守党のイングランドのみに関する立法を、労働党少数政権がイングランド以外の選挙区選出の議員の数に頼って、否決することができる。あるいは、労働党少数政権はイングランド以外の選挙区選出の議員の数に頼って、イングランド選挙区選出議員の絶対多数が反対するイングランドのみに関する法案を可決することができる。この矛盾点は「ウェスト・ロージアン問題」として知られている。行政府が立法府の信任を得る議院内閣制、政府立法が多い連合王国で、この二重構造は厄介な問題。

前回2010年総選挙では、保守党も労働党も単独絶対多数を得ることはできなかったが、結果は明らかだった。議会多数派を擁して、安定した政権を保てるのは、保守・自由民主による連立しかなかった。もし今回の総選挙の結果が世論調査どおりであれば、誰が次期首相となり、どの党が与党・野党となり、次期連合王国政権が少数政権・連立政権・少数連立政権となるか、まだまだ不透明。さて連合王国の新政権発足はいつになるだろうか、そして誰が首相となるだろうか。