ウェールズと石炭

過去の出来事でもし何かが違っていたら、その後はどんなことが起きていただろうか、我々が知っていて生きている歴史とどのような差があるのだろうか。このような考察は、英語で counterfactual history と呼ばれ、訳せば「反実仮想史」とでもなろうか。歴史家の間で物議を醸すもの。まだ過去を十分に説明できないのに、「もし⋯⋯だったら」というお遊びを行っている場合か、と。個人的に面白い試みだとは思う。歴史の局面局面で何が重要であったのか、あぶり出すにはある一定の成果をあげうるのではないか。

BBC電子版に上記の記事が掲載されていた。もしウェールズに石炭がなかったら、ウェールズはコーンウォールのように人口密度の低いイングランドの一地方になっていただろうという反実仮想史の仮説。

19世紀、石炭鉱業の発展によって、ウェールズの人口が急増した。1801年のウェールズ全体の人口は58万7千だったが、100年後の1901年には200万超に。同じ期間にウェールズの首都カーディフの人口は6千から17万2千人に。カーディフは石炭の取引や流通の中心地となった。石炭なしに産業革命はなかった。石炭、そして石炭を必要とする鉄鋼業など、南ウェールズは英国における一大産業地区になった。一方、重工業化以前の隣のアイルランドでは19世紀中葉の大飢饉(ジャガイモ飢饉)で人口が半減した。

もしウェールズに石炭がなかったら、急激な人口流入も産業基盤の発展もなかっただろう。もしウェールズに石炭がなかったら、英国で産業革命が急速に進んだだろうか、そしてその産業力に支えられた軍事力で覇権を握った大英帝国は存在しえただろうか。

20世紀の終わりが近づくにつれて、ウェールズにあった炭鉱は次々と廃鉱。現存する英国最大の製鉄所もウェールズ南部のポート・タルボットにあるが、業績が悪く存続が危ぶまれている。産業革命ひいて大英帝国の礎は石炭と鉄だっただろう。炭鉱は消え、製鉄所もなくなれば、その記憶は薄れ最後には失われてしまう。

石炭・製鉄が主力産業だったウェールズの地域は脱重工業化の過程で産業構造の転換に成功したは言えず、比較的に高い失業率や社会問題を抱えている。ウェールズが辿った歴史は、他にも一つの産業に過去に依存していたあるいは現在依存している場所に当てはまるだろう。気候変動もあり今後は石油の産地も似たよう道を歩むだろうか。