回し者ではないアフィリエイター

先日、とあるブログを読んでいたら、「回し者じゃないですが」という断り書きの後に、特定のサービスの紹介があった。サービス紹介はアフィリエイト・リンクで、例えば Amazon のアソシエイト・ウィジェットやクリック課金型広告のように、一見してアフィリエイト・広告と認識できるものではなく、本文中の会社名の文字列がリンクとして貼られていた。ただ、記事全体の文脈からしてやや強引に結び付けられていたので、読んでいると却って目立っていた。

自ら「怪しい者ではありません」と宣う人は、多くの場合「怪しい人間」と他人から見られてしまうし、自身も心の奥では「自分は怪しいことをしているのかも⋯⋯」と思っているのではないだろうか。ブログの書き手が「回し者じゃないですが」という語句を連ねる必要性を感じたのは、その人自身どこかで「疚しい」と意識しているのではないか、と勘繰ってしまう。しかし、但し書きは免罪符ではない。

驚いたことに、ブログの執筆者は実際にそのサービスを利用したわけではない。回し者ではないが、もし必要な状況だったら、このサービスを使っていただろうから、良いサービスである。それゆえ「勧める」ということらしい。一利用者として実際に購入して個人の経験や意見を語るのでなければ、よほどの専門家でないとサービスの良し悪しはわからないはず。この場合、とても専門家と呼べるような人物ではなかったし、他の利用者にとってサービス購入の判断に有意義な情報とは考えられなかった。

そのブログを書いている人は、実名・顔写真・住所など、個人を特定される情報を公開していた。専門家でもなく、社会的に認知されているイメージを企業なり商品なりに貸し出すスポーツ選手や役者のような有名人・著名人でもなく、自己の経験に基づいた訳でもないのに、個人を特定されるような人が、サービスや商品をアフィリエイトとして紹介しているのに、なんとも言えない違和感を覚えた。ただし正直でもある。悪質なアフィリエイト記事は、もっともらしい虚構の人物によるもっともらしい虚偽の体験談でモノやサービスを売りつけようとするので、その点は評価されるべきかもしれない。

かなり大雑把な区別となるが、インターネットのサイト上に広告やリンクを貼って収入を得る場合、特定の商品やサービスを紹介して売り上げの一部を報酬として受け取るアフィリエイト、そして商品やサービスの選定はインターネット広告会社に任せる方法がある。

アフィリエイトにおいては、ブログやサイトで紹介したモノやサービスが、売れれば売れるほど収入が増えるため、直接的利害関係が発生する。そのため、外観的独立性ひいては信用の維持は非常に難しい。件のブログでも、読者がアフィリエイト・リンクをクリックして、会社のページに移動して宣伝されていたサービスに登録したら、ブログを書いた人に、その会社から幾らか報酬が出る仕組みになっていた。

余人からすると、アフィリエイト・リンクが載っている記事は「何のため」に認められたのかという疑問が湧くことも多い。記事にある内容のことを書きたかったのか、それとも実はモノ・サービスを読者に買ってもらいアフィリエイトで利したいのか。通常両方だろうが、片方が「主」でもう片方が「従」となる場合が多いだろう。単純で極端な例をあげれば、書き手として「アフィリエイトで利益を得たいからこの記事を書く」と「この事について書きたいし、どうせ書くならお小遣い程度にアフィリエイト・リンクを貼ってみようか」の違い。読み手としては、「ああ、この人はアフィリエイトで儲けたいのだな」と「有意義で読み応えのある記事だな。あ、関連した商品・サービスが載っている。よし、買ってみるか」の違い。文章の良し悪しで、書き手の意図と読み手の読解が一致しないこともあるだろうか。

記事内容が「主」であることを見せかけることに失敗して、アフィリエイトが主目的だと露呈した場合、あるいはそう読み手に捉えられてしまった場合、読者は「騙された」と思ったり「胡散臭い」または「ずるい」と感じてしまい、記事を書いた人の信用が落ちる。殊にアフィリエイトと一目瞭然のウェジェットや広告ユニットを使わず、文中にアフィリエイト・リンクを入れる場合はそうだろう。アフィリエイト・リンクを自然に文章に埋め込むことができる人は、名文家でコピーライターやアフィリエイターとしても成功するだろう。悪く言えば有能な詐欺師となる可能性を秘めている。

ちなみに当サイトでは Google が自動的に広告を配信する AdSense を利用している。管理人である私には、どの閲覧者にどの会社のどの広告が表示されるのか、予知できないため、広告に表示された特定の会社や商品やサービスとの直接の利害関係は発生しない。まあ、そのため、時として「変な広告」が表示されてしまい、そんな変な広告を私が選んでいると誤解する読者のこのサイトへの評価が下がってしまうことがあるかもしれない。

なんとなくもどかしいというか、例のブログの場合、直接的利害関係があって外観的独立性に苦心する立場にあるのだから、「回し者じゃないですが」などと逃げ口上を書かず、アフィリエイトとの関係も会社名をハイパーリンクとするような手段ではなく、明確にした方が良かったのではないかと思う。そして何故利用したこともないサービスを自信満々に勧めることができるのか、諸人が納得できる説明を足すべきだとも感じた。しかも、匿名で行っているのではなく、実名つまりは個人の信用で商売をしているのだから。長期的にこのような行為は、信用を失ってしまうのではないかと危惧する。ブログが個人と密接に関連しているので、ブログ記事の内容そしてブログ全体の媒体としての信用の失墜は、書いているブロガーという人間の信用の失墜に繋がるのではないだろうか。