インターネットと評価経済

VALU

何気なく Twitter を眺めていたら、「VALU」という新しいインターネット・サービスについてのツイートがあった。サイトを閲覧したところ、どうやら個人の評価を「VALU」という名の株に擬して、そのVALU「株」の発行と売買を可能にする市場をかけあわせた、評価を資本とみなす経済の先駆けのようなところらしい。通貨は、日本円や米ドルではなく、ビットコインを使う。VALU発行者の評価及び発行可能なVALU株数と売出価格は知名度に拠る。具体的にはSNSのフォロワー数。面白い試みだとは思うが、法律にも金融にも投資にも疎いので、それらの面で問題があるかどうか分からないし、どうも要領を得ない。

発行されたVALU株を購入したファンまたは応援者は「VALUER」と呼ばれる。VALU発行者は、発行したVALUを魅力的にするために、VALUERに情報や優待特典を提供することができるが、提供する義務はない。また、VALUERは「本当の株主」ではないので、例えば株主総会を開いて、VALU発行者の行動の方針を決めることができるわけではないし、VALUを買い占めて買収することもできない。まあ、生身の人間だから、当たり前の話だが。ここ数年広まってきた、クラウドソーシングやクラウドファンディングの一種と考えてもよいだろうか。実質的には出資者が見返りを求めない寄付もあれば、モノあるいはサービスなど何らかの特典がつくのがあり、VALUもその点では似ているようだ。違う例え方をすれば、ファンクラブの会員みたいなものだろうか。

クラウドソーシングやクラウドファンディングやファンクラブ会員とは違うのは、VALU株を取引でき、VALU運営会社の一存によって存在する、閉じられた市場が構築されたところだろうか。ただ単に誰かを応援するため、または見返りを期待して、VALUという擬似株券を買うだけではなく、他のVALU参加者と発行されたVALU株を売買することができる。なお、私の理解不足かもしれないが、VALU利用者の口座にあるビットコインは、VALUから出金すれば、汎く他のモノやサービスと交換できるお金としての価値があるが、擬似株券VALUは、擬似というか閉鎖された専門市場VALUというサイト上でしか、ビットコインを使って交換できないので、この特別な市場外では究極的に無価値。ちなみに利用者退会時また運営会社が利用者の会員資格を剥奪した場合、VALUは運営会社が無効にすることができる。

利用規約によれば、このサービスは「ファンとして発行者を応援する観点から」楽しむことに主眼を置いていて、社会的経済的実験の側面が強いような印象を受けるが、実際のお金(ビットコイン)を介しているので、資金を調達したり取引によって利益を得ようとする人がいてもおかしくない。また、VALUの運営会社の収益モデルは、VALUの発行と売買に手数料を課すこと。そのため、健全で公平な取引市場として機能できるかどうか、非常に重要なことではないだろうか。

まず疑問に思うのが、市場規模。多くの人が参加する市場の方が、少ない人が参加する小さな市場より、不正が起こりにくく、適正価格に近くなるような気がする。もちろんサービスを開始してから間もないこともあるが、どう見ても小さい。多くの人が多くのVALU株を取引しているようには見えない。利用者のデータのタブにVALUER数と出来高が掲載されているが、幾千というわけではない。それに反するかのように、発行VALU株数は人によるが、かなり多い。数百どころか、数千あるいは万単位のVALU株を発行している利用者もいる。現在は無料期間中だが、発行手数料がVALU発行数ではなく、発行回数になっているので、一度に多くのVALU株を発行した方が得だろう。また、SNSのフォロワー数がVALU株の発行可能数と関連しているので、大量に偽フォロワーを購入して、VALU株の発行可能数を増やすこともできるだろうか。

実際に利用しているわけではないので、間違っているかもしれないが、市場評価もどうもよく分からない。利用者のデータを見ると、「時価総額」が「ビットコインでの現在値✕VALU総発行数」で数千ビットコイン、つまり日本円に換算すれば億単位という、非常な高評価になっている利用者も見受けられる。有名人やスポーツ選手でもあるまいし、かなり過大評価されているのではないだろうか。また市場規模が小さいので、大量に発行したVALU株をあまり売り出さず、他のVALU利用者と事前に調整して相互にVALU株を高値で購買して、いかにも高額で取引されているように見せかけて、時価総額を吊り上げる価格操作も不可能ではないような気がする。また大量にVALU株を発行し、微額で売り捌き、得たビットコインをVALUサイトから出金して、VALUアカウントを閉じることも、利用規約を読むかぎり、不可能ではない。そして繰り返しになるが、VALU株はこの市場以外では無価値だ。

個々の人間の評価をインターネット時代の資本と考えるのは、非常に興味深いところがある。最初に書いたとおり、このようなサービスは面白い試みだと思うが、私のような愚鈍な人間には理解しづらいところがあり、「分からないことには金をつぎ込まない」性格なので、今後どのように発展するのか、注目はするかもしれないが、参加することはないだろう。