SNSと doomscrolling

ここ1年ほどよく見かけるようになった英単語に doomscrolling が挙げられる。インターネットで悪い情報やニュースを長時間読み続けること、そしてそのような行動に起因する精神疲労や不安を指す。英単語の「破滅」 (doom) とスマートフォンの画面を「スクロールする」 (scrolling) を合わせた造語。新型コロナウイルス感染症で家で過ごす時間が長くなった。増えた可処分時間の一部をニュースを観たり読むことやSNS利用に回す人も多いだろう。

24時間ニュースを放送しているテレビ局や頻繁に更新されるウェブサイトやSNSで、ついつい最新の情報を見てしまうことが多いかもしれない。テレビやラジオなどのメディアは熾烈な視聴率聴取率競争の中、新型コロナウイルス感染症のニュースをひっきりなしに取り扱っているし、新聞や雑誌も大々的に報じている。中には不安を煽るような報道も。しかしテレビ・ラジオ・新聞・雑誌などのメディアは編集があり、意図的に間違ったりあまりにも誇大にした情報を流すことはないはず。誤報はメディアの信用低下に繋がるので、暴走の抑止力にはなっているだろうか。

SNSには公式アカウントや実名で役職や肩書きで信用できそうな人もいるが、多くの場合どこの誰が何の目的で書き込んでいるのか分からない。虚偽の情報を流すことを愉快に思っている人もいれば、陰謀論を真実だと信じて他人に良かれと迷惑で危険な善意で拡散する人もいる。SNSの内容はフォローしているアカウントで決まる要素が強い。類は友を呼ぶというか、特定の思想や社会現象の解釈のアカウントをフォローすると、似た主義主張の投稿やアカウントが表示される。表示された投稿に「いいね」を押したり、書き込みを再共有したり、アカウントをフォローすると、更に似た内容が表示される。そうなると自分が持っていた主義主張が多くの人と同じであると錯覚して、肯定感を味わい更に意見が強固になる。いわゆる「エコー・チェンバー」化。そして単に受け取るのではなく、積極的能動的に発信するように。自分が発信した内容が肯定されれば、また自分が多数の人に支持されていて正しいと確信する。投稿の頻度と深度が増して、もっと長くSNSに時間を費やす。

Facebook と LinkedIn でアカウントを保有しているが、友人や知人との連絡手段として以外は使っていない。時たま LinkedIn 経由で仕事の話が回ってくるが、大体は無理な条件だったり、あまりにも唐突だったりすることが多い。米国や英国ではジャーナリストが速報用として Twitter をよく利用していている。速報性よりも正確性の方が大事だと思うが、ジャーナリストの性として誰よりも早く速くニュースを発信したいのだろう。主に Twitter で記者や学者をフォローして情報源として利用していた。テレビやラジオで中継する前に Twitter で呟くジャーナリストが多く、何か出来事や事件事故があったりすると、真っ先に何が起こっているか知ることができた。ほぼ毎分更新されると中毒性があった。一度書き込みを読みはじめると、返信を読んだり続報を待ったり、なかなか止まらなかった。

昨年はトランプ前大統領や新型コロナウイルス感染症など、ニュースが流れる度に一喜一憂、いやその都度深憂することが多々あった。一回に何時間もSNSの投稿を読むことはなかったが、一日に何回も確認してしまった。強迫性障害と共通するように、数時間確認しないと何か大きな事が起こったのに全く知らないのではないかという思いが強かった。SNSでニュースや意見を見たところで自分に何かができるわけではないのに。頭ではそう分かっていても止められず、まさに doomscrolling を行っていた時期があった。

最近は Twitter は全く見ない日もある。時々確認するくらい。ニュースは主に PressReader で読むようになった。このサービスはネットでもアプリケーションでも利用でき、紙の新聞がデジタル化されたものと言えば想像しやすいだろうか。数年前から利用しているが、ここ数カ月はウェブ媒体やSNSをほぼ情報源とせず、新聞ばかり読むようになった。新聞は未だに素晴らしい媒体だと思う。多くのニュースを一カ所にまとめたうえ、論評や社説やオピニオン面がある。編集者がどのニュースをどの紙面でどれだけ大きく取り扱うか、ニュースに重要度をつける。紙に印刷されるため、締め切りが決まっている。一旦印刷すれば更新することはできない。差し替えて新しい版を出すこともあるだろうが、最終版の後は号外がなければ次の刊までない。読んでいる途中に新しい記事が投稿されることもない。新聞は時間をかけて読むことができる。そして考えることができる。ただただ膨大な情報の波に襲われるのではなく、咀嚼する時間がある。地震などの自然災害や大きな事件事故など緊急性速報性のあるニュース、またはスポーツの試合の途中経過や選挙結果などを除けば、毎分毎秒新しい情報を追いかける必要がない場合がほとんど。24時間常に更新されるウェブサイトを閲覧したり、ラジオでニュースを聴いたりするが、様々な国の新聞を読めば情報を得ることができるし、言語の勉強にもなる。

情報量が膨大だからこそ、もっとゆっくりとしっかり考えながら生きていくべきなのかもしれない。SNSは今後 doomscrolling に陥らないようたまに眺める程度にしよう。現在最も利用しているSNSは Pinterest だ。写真が主で非常に平和な世界。