五輪と記憶

カーリングの女子決勝が英国時間の2022年2月20日午前1時5分に始まるので、今夜は夜ふかしするつもり。しかし起きていられるだろうか。できるだけ睡眠パターンを乱さないように、就寝時間を遅くしないように心がけているためか、それとも単なる老化なのか、早寝早起きになっているので、開始前に眠ってしまうかもしれない。一度始まれば眠ることはないだろう。

夏季五輪・冬季五輪はそれぞれ4年に1回なので、個人個人世代世代そして社会全体で共有された記憶の道標となる。もちろん記録にも記憶にも残る結果が多いが、記録よりも記憶に刻まれる結果もあるだろう。

1979年生まれで、あまり子供の頃の記憶がないのだが、夏季五輪だと1988年ソウル大会を何となく覚えている。でもあやふやなので覚えているような気がするだけかもしれない。1992年バルセロナ大会は岩崎恭子氏の金メダルが強烈な印象を残しているので覚えている。自分と同世代の人が金メダルを獲得するということに衝撃を受けた。1996年アトランタ大会は時差の関係だろうか、さほどテレビで観た記憶はない。2000年シドニー・2004年アテネ・2008年北京各大会もそれほどテレビで観ていなかった。時差的に2004年は十分に中継を観戦できたはずだが⋯⋯特に何か覚えているかと問われたら、答えに窮する。2012年ロンドン大会は実際に競技場に何回も足を運んだため、逆にテレビではあまり観戦しなかった。2016年リオ・デ・ジャネイロ大会は時差の関係かあまり観なかった。今考えると、ロンドン大会で実際に競技場で味わった感動の反動で、テレビを介してでは満足できなかったのだろうか。昨年2021年に行われた2020年東京大会も断片的にしか観てなかった。もっと観たかったのだが、観られなかった。理由は後述する。

冬季五輪では1988年カルガリー大会も1992年アルベールビル大会もほぼ記憶にないが、1994年リレハンメル大会は覚えている。女子フィギュア・スケートの「ナンシー・ケリガン襲撃事件」があったりして、今大会のように悪い意味で注目された部分があった。1998年長野大会ではカーリングが行われていた軽井沢でボランティア通訳をしていたので思い出深い。休憩で溜まり場というか事務室のような所に行ったら里谷多英氏の金メダルで盛り上がっていた。そして清水宏保氏の金メダルは観ていたと記憶している。ジャンプの中継を観ていたか覚えていないが、船木和喜氏と団体の金メダルに沸いた。その後の2002年ソルト・レーク・シティー大会・2006年トリノ大会はあまり観なかった。こう振り返ると2000年代の五輪は夏季冬季両方あまり観ていなかった。なぜだろうか、考えてみるとちょっと不思議。学生だったので、時間は十分にあったはずなのに。2010年バンクーバー大会は時差のせいかあまり観なかったが、2014年ソチ大会は結構観ていたと思う。2018年平昌大会は所々観ていた。

2018年平昌大会・2020年東京大会・2022年北京大会は観たくても観ることができなかったと表現した方が良いだろう。2018年以降英国での放映権を有料チャンネルの Discovery が取得して、公共放送BBCは Discovery とライセンス契約を結び地上波放送をしているが、放送できる量が制限されている。BBCに放映権があった2016年リオ・デ・ジャネイロ大会まで、全競技の中継映像がBBCのウェブサイトで選べたのだが、2018年平昌大会以降は同時生中継は2つの映像に限られ、地上波の番組とハイライトの一部がウェブサイトで閲覧可能になった。番組も時差の関係で中継とハイライトを組み合わせた形になって、当たり前のことだが英国の選手が活躍する競技が中心になっていた。結果が出てから放送されることもあるので、興醒めすることもしばしば。そのため東京五輪では例えば柔道の動画を見つけるのにも一苦労したし、卓球混合ダブルスは結果を知ってしまった後に放送されていたのを観た。自分が観たい競技がいつ放送されたのか分かりやすいタイムスタンプがあるわけでもなく探すのに苦労した。

今大会も好きなカーリングやノルディック種目を中心にテレビで観てきた。カーリングは上記に理由で熱心に観るし。英国の活躍が見込まれるため、放送されるので困らなかった。なぜノルディック種目が好きなのかというと、私が子供だった頃の1990年代半ばの冬のスポーツで日本人選手が活躍していたのが、ジャンプやノルディック複合だったから。1992年アルベールビル大会で記録にも記憶にも残る結果として伊藤みどり氏の銀メダルを思い浮かべる人が多いだろうが、日本の唯一の金メダルはノルディック複合団体だった。1994年リレハンメル大会でも同じく日本唯一の金メダルはノルディック複合団体だった。そのため2022年北京大会で日本がノルディック複合団体でオーストリアに競り勝って銅メダルを獲得したニュースは非常に嬉しかった。1990年代、主に在外邦人向けの日本語の衛星放送に加入していたのだが、同時他の衛星放送局を視聴することができた。その中に Eurosport というスポーツ専門チャンネルがあって、冬になると毎週末ノルディックやアルペンのスキー大会が中継されていた。特に数多くの日本人選手が活躍するスキー・ジャンプは逃さず観ていた覚えがある、そして有力な日本人選手がいないバイアスロンやクロスカントリーをよく観るようなった。残念ながらBBCでノルディック競技はあまり重点的に放送されない。英国選手の活躍が見込まれないのと、フィギュア・スケートやスキークロスやハーフパイプなどに比べると華がないためだろうか。黙々と冬の森の中を進むクロスカントリーのどこが面白いのか、と訊かれることもあるが、マラソンを観ているようなものだと答えると何となく分かってもらえる。そしてできれば最初から最後まで観たい。結果だけではなく経過も知りたい。結末だけでは面白くない。小説やドラマで最終章最終話だけ読んだり観たりするのが面白くないのと同じ。

過度な商業化・肥大化・汚職・ドーピング疑惑・政治利用など五輪に対してなにかと引っかかるところが多いが、選手の活躍は観ていて楽しいし画面越しで選手に伝わるわけでもないが応援したくなる。今大会も様々なドラマがあった。良くも悪くも。2024年パリ大会と2026年ミラノ=コルティナ・ダンペッツォ大会はどのような五輪になるだろうか。ヨーロッパだから現地観戦もしたいが、恐らくそのような時間も金銭的余裕もないだろう。