短評 | Napoleon’s Wars

2009年5月28日

ヨーロッパ近世の「終わり」がいつか歴史家の間でも意見の分かれるところ。有力候補としてフランス革命(1789年)がある。フランス革命以前の Ancien Régime は近世、旧体制崩壊のあとが近代という時代区分だ。さてナポレオンの時代は「近代」となるが、近世の延長あるいは終焉と見るべき、あるいは近代と近世の狭間という見方もある。

いずれにせよ、1815年以降のヨーロッパは1789年以前とかなり変わったことに違いない。そしてナポレオンという一人物が、この時期のヨーロッパ史で中心的役割を果たした。ナポレオンの評価にもかなり差がある。ナポレオン崇拝者もいれば、ナポレオンをまるで悪魔の化身のように思う人もいる。平和な統一ヨーロッパを目指した先駆者、それとも戦争に明け暮れた簒奪者と正反対の見方ができる。

この本の著者はナポレオンに対し否定的な意見だ。ナポレオンはいかなる束縛を嫌い、他国には自分の意をおしつけ、自身の立場を正当化するために常に戦争に勝ち続け「栄光」を得る必要があったと主張する。ヨーロッパの平和はナポレオンが頂点に立つナポレオン体制では無理だったという。

Wars とあるため、会戦だけではなく、外交や各国の内政にも踏み込んで、「戦争」を多面的に議論し、これまで軽視されてきたオスマン・トルコやセルビアについても多くのページが割かれるなど、ヨーロッパ全体を見渡す本なので、読んで得ることは多いと思う。しかしナポレオンの人物像については、これからも英雄か悪人か、活発な議論が交わされることになる。