テレビ短評 | Easter Island: Mysteries of a Lost World

イースター島と言えばモアイ像。そのモアイ像を作ったラパ・ヌイ人には謎が多い。そしてなぜラパ・ヌイ文明は衰退したのか、いろいろな説がある。これらの謎を取り扱ったBBCのドキュメンタリー番組を観た。進行役は Jago Cooper 博士で、以前南米の文明についてのテレビ番組にも関わっていた。

モアイ像作りの競争が激化し、人口の増加と椰子の木が茂る森林の破壊が進んだ結果、資源が枯渇し、飢饉となり、イースター島は内戦状態に陥り、その戦乱の中にモアイ像倒しが進み、人が人を食べるまでになってしまった「環境破壊」説が一般的に語られている。つまりラパ・ヌイ人は己の自然世界を破壊したために、滅びてしまったということ。しかし、モアイ像を破壊する目的では倒されたわけではないらしい。もし破壊が目的であったならば、像は倒されて、鼻が折れたりしたはず。そうではなく、何らかの宗教的あるいは儀式的な意味で、うつ伏せに置かれたという説も成り立つし、より説得力がある。焼畑農業で椰子の木が失われたあと、ラパ・ヌイ人は石を地面に撒いて風を防ぎ水を保つように努め、農業も続いた。また海に囲まれているため、漁業で食料を確保できたはずなので、人口増加と食料不足で人が人を食べるようになったという、少なくとも一般的に言われている状況ではなかったと論じているし、考古学的にも食人があった形跡はないという。

長い間孤立していたラパ・ヌイ文明が、オランダと接触したあとの半世紀にあたる18世紀に何があったのか、それがラパ・ヌイ文明衰退の謎を解く鍵となりそう。コロンブス後の南米同様に、オランダ船が何らかの病気を持ち込み、人口が減ったという説が有力。そして、19世紀になると、多くのラパ・ヌイ人が奴隷狩りに遭い、ヨーロッパ人が土地を詐欺まがいに買い上げて羊を持ち込み、現在の草々としたイースター島が出来上がった。つまり、ラパ・ヌイ人は環境を破壊したのではなく、ジェノサイドの被害者であったということ。

環境破壊によるラパ・ヌイ文明の衰退を、現在世界が置かれている状況と重ねて警鐘とするべしという論もあるが、それは無知と偏見が垣間見える、都合の良いラパ・ヌイ文明衰退の物語を作り上げた、西洋文明の身勝手を示しているのかもしれない。

今後の研究によって、イースター島の歴史がより詳しく解明されることだろう。秀逸なテレビ番組だった。