デジタル移民

1979年生まれの私は、世代的に「デジタル・ネイティブ (digital native)」より「デジタル移民 (digital immigrant)」にあたると思う。デジタル・ネイティブは子供の頃からインターネット環境が整っていて、デジタル化された世界で育ってきた人たちで、デジタル移民は大人になってからネットが当たり前になった世代。英国の中学・高校時代、コンピューターはあったがインターネットはまだまだ家庭や学校で普及していなかったし、携帯電話もまさに持ち運べる電話器で現在のスマートフォンからは程遠い器械だった。私がインターネットを本格的に使いはじめたのは大学に入ってから。デジタル・ネイティブとデジタル移民の差は、タイプライターを使ったことがあるかないかの差かもしれない。少なくとも英国のデジタル移民の多くはタイプライターに触れたことがあるが、デジタル・ネイティブは最初からコンピューターを使っている。

少し記憶があやふやだが、コンピューターと電動式タイプライターの他に、インクリボン式タイプライターもどこかで使っていた。キーを打つとその字のアームがバチンとインクリボンにあたり、ローラーに固定されている紙に印字される。しばらくバチンバチン打っていると、改行を促す「チーン!」という音が鳴る。単語を打ち終わった区切りの良いところで、ギリッとダイヤルのようなものを回して改行して、ガーッとローラーを右に押していたと記憶している。タイプライターで練習したのが功を奏したのか、大学に進学した時にはタッチタイピングができるようになっていた。そしてタイプライターで打ち間違えると面倒だったので、比較的正確に。ただタイプライターで練習した弊害として、コンピューターでも最初の数年は結構強くキーを押す癖があった。医者に診断されたわけではないが、コンピューターでレポートを書いていた時、腱鞘炎のような症状と肩凝りになったので、軽く触る程度の打ち方に改めた。

今は英国英語・ドイツ語・日本語(ローマ字入力)配列をしょっちゅう切り替えている。キーボード自体は英国英語配列だが全く見ていない。ドイツ語で ä, ö, ü, ß が必要な場合があればドイツ語配列に切り替えるし、日本語で何か書く時は日本語配列に。タッチタイピングで結構速く打てるので、ローマ字入力で打数が増えても効率でかな入力に劣らない。キーボードは必需品。仕事や長文を認める時にキーボードなしは厳しい。デスクトップとノート型のどちらでも構わないが、とにかくパソコンでないとだめ。

スマートフォン以前の携帯電話とスマートフォンの大きな違いの一つは文字の入力方法ではないだろうか。携帯電話はどう使いやすいテンキーやキーボードを組み込めるかが課題で、折りたたみ式やスライド式などいろいろな工夫がなされていた。一時期キーボードが付いていた BlackBerry が人気を博していたが、キーが小さくて使いにくかった。その点テンキーやキーボードを必要としなくなったスマートフォンは画期的。でもスマートフォンやタブレットなどの端末で、スワイプ入力やフリック入力するのをまどろっこしく感じるし、指が非常に疲れる。すいすいと入力できる人が本当に羨ましい。

今や多くの人はスマートフォン・タブレットを保有していてもパソコンを持っていない。もはや世代の差はスマートフォン・ネイティブとスマートフォン移民の差だろうか。デジタル移民がいかに古い世代の人間なのか、改めて思い知る。