英語ノート

うし牛ウシ犇々

もう数日前のことになるが、風邪を引いたあとに肌寒い日が続いたので、何か暖かくなるような物を食べようと、スーパーへ行ったら、牛の尾が売られていた。ぐうたらなので「大鍋で野菜と煮込めば、数日分の食事になる」と思い、買って帰った。フライパンでさっと焼いたあとに、鍋に野菜と大量の大蒜と一緒に放り込み、パプリカとマスタードで味を整え、数時間ぐつぐつと煮た。ちょっと変な味付けかもしれないが、まあ悪い出来ではなかったと思う。

大手スーパーの Sainsbury’s で売られていた牛の尾。1キログラムあたり£6(現在のレートで£1は約160円なので960円ほど)で、624グラムで£3.74(およそ600円)だった。

結構脂肪がある。

 

牛の尾は英語で oxtail で、日本語でも牛肉の部位として「テール」と呼ばれているらしい。牛タンも英国英語では通常 ox tongue と呼ばれている。でも米国英語では、どうやら beef tongue が主流らしい。英語では生きている動物とその肉の呼び名が違うことがよく知られている。これはノルマン征服後、支配者層となったノルマン人たちが肉を食べ、被支配者層であるアングロ・サクソン人たちが食べ物になる前の動物を飼育していたからと言われている。そのため、英語で食べる「牛肉」はフランス語の bœuf に近い beef だが、生きている「牛」は ox, cow, bull などで、ドイツ語の Ochse, Küh, Bulle と似ている。尾や舌に ox が付いているのは、被支配者層の人たちがありつくことができた部位だったためだろうか。

厄介なことに、生きている「牛」を意味する単語が、英語には数多くある。まず ox には「乳や肉のため家畜化された偶蹄目ウシ科の動物で cow や bull のこと」といった性別に関係ない幅広い意味もあれば、耕作などに利用される「去勢された役畜の雄牛」という狭義の意味もある。オックスフォード駅前に立派な牛の像があるが、去勢されたようには見えないので、多分オックスフォードの ox は最初の幅広い意味だろう。複数形は oxen である。雄牛・雌牛に関係なく「牛」を意味する単語に bovine があげられる。名詞では「水牛や野牛なども含む偶蹄目ウシ科の動物で cattle と同義」だが、どちらかというと形容詞として使われることが多いような気がする。世間を騒がせた「狂牛病」こと牛海綿状脳症BSEのBは bovine だ。そして cattle は「偶蹄の大きな反芻動物で角を持ち、乳や肉のため、または役畜用として、家畜化されたもので cows や oxen のこと」と定義されている。ちなみに cattle は複数名詞で、1頭の牛を指す場合には使われない。また例えば畜産家が飼育している「250頭の牛」を意味する場合には 250 head of cattle という表現が用いられる。肉用牛の群れは beef cattle で、乳用牛の場合は dairy cattle, dairy herd, milch cattle と言う。また cattle は「家畜化されたウシ科に属する動物でヤクや水牛や野牛など。特にウシ亜科ウシ族ウシ属のこと」とある。

子牛は雄雌関係なく calf で、子牛の肉は veal である。去勢されていない雄牛は bull で、去勢された肉用牛の雄は bullock または steer として区別されている。そのため、去勢されていない雄の子牛は bull calf で、去勢されたなら bullock calf あるいは steer calf となる。雌牛に一般的に cow だが、厳密には子牛を少なくとも2頭産んだ雌牛のことで、未経産牛・1頭子牛を産んだ経産牛は heifer と呼ぶ。雌の子牛は heifer calf となる。また calf, bull, cow は牛だけではなく、鯨や象や犀のような大きな動物の子・雄・雌を指す。

ただしこのように厳密に区別するのは、区別する必要がある畜産関係者か、区別しないと気が済まない言語にやたらうるさい人たちだろうか。例えばスペインの闘牛のように雄牛であることを明らかにするために bull を使うことがあるが、一般的に牛は cow で子牛は calf と覚えておけば無難だろう。