Parterre

もう20年ほど前の話になるが、学生の時、勉強・研究のためにドイツ・ベルリンに住んでいたことがあった。現行制度は分からないし、記憶も定かではないが、当時知人とシェアすることになって到着後、まず区役所 (Bezirks­amt) か市民局 (Bürger­amt) の登録課 (Melde­behörde) に転入届 (An­mel­dung) を提出して、受理された後に外国人局 (Ausländer­behörde) で長期滞在許可証 (Aufenthalts­erlaubnis) を取得した。更にその2年前だったか、1学期間交換留学生としてマールブルクにいたのだが、その時はドイツ渡航前にロンドンのドイツ大使館に行ってビザを取得する必要があった。ビザを取得した上で入国して、転入届の提出と外国人局での登録を行った。その2年の間に制度が変わり、ベルリンの時に学生の場合は渡航前のビザ申請は必要でなくなっていた。

ベルリンで転入届を出した際、住所は「〇〇通り△△番1階右」というような感じだった。□□号などの部屋番号はなかったので、記入欄に階数と左右の位置を書き込んだ。その時の「1階右」の部分が Parterre rechts だった。つまり Parterre は英国英語の ground floor やフランス語の rez-de-chaussée にあたる。英国の学校で習った「1階」を指すドイツ語単語は Erd­geschoss だったが、ベルリンでは Parterre と書くのが普通と誰だかに教わって、そのように記入した。ベルリン以外でもスイスやオーストリアでは Parterre がよく使われているようだ。

Parterre はもともとフランス語の単語だが、上記ドイツ語の単語でもあるし、また英単語でもある。ただフランス語にも英語にもドイツ語の「建物の1階」という意味はない。仏英両語でまず園芸用語で「花壇」を意味する。ここでの「花壇」は草花が植わった部分のみではなく、路や植え込みなど装飾性に統一感がある庭園の一区画全体のこと。ドイツ語単語 Parterre に「花壇」という意味は辞典を参照してもなかった。次いで劇場の「平土間」という意味を持つ。舞台正面の1階の部分と言えば良いだろうか。今は席があって勾配があることが多いが、昔は平で立ち見客用だった。この意味は仏英独で共通しているが、英語の場合手元の辞書によれば chiefly N. Amer. とあり北米で主に使われ、ドイツ語だと veraltend つまりは「古めかしい表現」という注意書きが。現在一般的に劇場の「平土間」を指す英国英語は stalls でドイツ語の場合だと Parkett だ。

何がきっかけだったのか⋯⋯なぜだか Parterre rechts をふと思い出した日曜日の午後。