Not proven

ほとんどの法域の刑事訴訟で被告人は有罪か無罪かのどちらかの判決を受ける。真犯人が有罪になり無実の人が無罪になるのが「正しい」結果。でも真犯人が無罪になったり無実の人が有罪になる「間違った」結果もある。

英語で有罪は guilty で無罪は not guilty だ。スコットランドはイングランドとウェールズと違う法体系で、刑事裁判において有罪と無罪の他に not proven という判決がある。訳せば「不立証」にでもなるだろうか。文字通り読めば、被告人が有罪であるという合理的な疑いを超える確信を、検察側は陪審員に抱かせる挙証責任を果たせなかった。つまり無罪。法的に無罪と不立証に差はない。

重複しているし紛らわしい。これまでも不立証の存在について議論があったが、現在司法制度を改革する法案 (Victims, Witnesses, and Justice Reform (Scotland) Bill) がスコットランド議会で審議されていて、その中で不立証をなくすことが提案されている。

法曹界に冤罪が増えるとして反対意見もあるらしい。あまり深く研究はされてきた経緯はなく、確たることは言えないが、意識調査や模擬裁判を行ったところ、同じ条件で従来の有罪・無罪・不立証であれば不立証つまり無罪だったのに、有罪・無罪の二者択一で有罪を選ぶ陪審員役の人がいたため。有罪の挙証責任は同じであり、無罪と不立証に差は出ないはずだが、あったということが問題。

スコットランドの現行制度の刑事裁判で陪審員は15人で、有罪は過半数の8人以上で決まる。ちなみに有罪でない場合、無罪か不立証はどちらの陪審員が多かったかで決まる。無罪と不立証が同数の場合は不立証になる。改革案で陪審員の数を12に減らすが、有罪判決に必要なのは最低8人とすることになっている。不立証はなくなるが、有罪判決に陪審員の3分の2以上が必要になる。

理想的な制度ならば真犯人は必ず有罪になり冤罪は発生しない。しかし現実は完璧ではない。上記のようにスコットランドの法体系は違うが、一般論として冤罪に対する考え方は英米法の解釈に似ていて、ウィリアム・ブラックストンの

It is better that ten guilty persons escape than that one innocent suffer.

つまりは

十人の真犯人を逃すとも一人の無辜を罰するなかれ

という表現で汲み取ることができるだろう。もちろん真犯人が無罪になるのは望ましくないが、いかに冤罪は避けられるべきかを強調している。

もし改革案が通って不立証が廃止されたら、冤罪は増えるのだろうか、それとも冤罪は増えないが真犯人の有罪率が高くなるという好ましい効果があるだろうか。