2021年ドイツ連邦議会選挙

ドイツでベルリン市議会選挙・メクレンブルク=フォアポンメルン州議会選挙とともに連邦議会選挙(総選挙)が、昨日2021年9月26日に行われた。もうそろそろ現地時間で27日午前2時になるところ。まだ全ての結果が出たわけではないが、大勢が判明していて、ドイツ社会民主党(SPD)が連邦議会の最大勢力になる。これまで最大会派でメルケル首相が所属する「同盟」ことキリスト教民主同盟(CDU)とキリスト教社会同盟(CSU)は大幅に得票率を落として、連邦議会第2の勢力に。

連邦議会の最低議席数は598。小選挙区比例代表併用制で、比例代表の得票率によって議席が政党に配分される制度。小選挙区は299区。有権者は第1票 (Erst­stimme) で小選挙区の議員 (Direkt­mandat) を直接選出し、比例代表の第2票 (Zweit­stimme) で政党に投票する。小選挙区は単純小選挙区制で、その選挙区で一番多く票を得た候補が当選する。小選挙区で比例代表の得票率以上に議席を確保した場合、超過議席 (Überhangs­mandat) が発生する。例えば小選挙区50・比例代表50の100議席からなる場合、比例代表の第2票の得票率で40%を獲得したら40議席を獲得するはずだが、44小選挙区で勝った場合、4議席が超過議席となった。他の政党にはもともとの100議席が配分されている形となって、例えば20%の得票率の政党は20議席を獲得して、総議席数が超過議席4を含めて104になった。この制度は多くの小選挙区で当選者を出すCDU・CSUとSPDにとって有利で、比例代表の得票率以上の議席を得られた。2013年以降の連邦議会選挙では、超過議席を考慮した調整議席 (Ausgleichs­mandat) が配分されるようになった。つまり前の例だと44議席が40%なので、総議席数は110に増えて、20%の得票率の政党は22議席を獲得することになった。前回の2017年連邦議会選挙では46の超過議席と65の調整議席が発生して、議員数が709になった。さすがに111議席も多いのは議会の肥大化であるとして、2020年の法改正で調整議席は超過議席が3席以上ないと配分されないなど一部制度が変わったが、今回も最終的な選挙結果によっては多くの超過議席・調整議席が発生する。

ドイツ人の友人知人のほぼ一致した意見として、メルケル氏個人への支持はCDU・CSUという政党への支持より強かった。選挙戦や討論を通してSPD首相候補のショルツ氏の方がCDU・CSU首相候補のラシェット氏より首相に相応しいと感じた有権者が多かった模様。そして一時は世論調査でSPDとCDU・CSUと比肩する支持を誇っていた緑の党も失速した。ただ失速したと言っても連邦議会に議席を有していた6政党の最小勢力から議席数で3番目の政党に躍進した。自由民主党(FDP)は微増。極右のドイツのための選択肢(AfD)は3番目の勢力から5番目になり、これは朗報だが、ザクセン・ザクセン=アンハルト・テューリンゲンの各州の小選挙区で議席を次々に獲得している。この選挙において敗者はCDU・CSUと左翼党だろう。左翼党は得票率5%を割る可能性がある。ドイツの選挙では、一般的に最低5%の得票率がなければ、比例代表に基づいた議席は配分されない。ただし5%以下であっても最低3小選挙区で勝利を得れば、得票率に見合った議席を得られるし、ベルリンとライプツィヒにある3小選挙区で左翼党の候補が選ばれる見通し。1994年連邦議会選挙で、現在の左翼党の前身の民主社会党(PDS)は、得票率4.4%だったが4小選挙区で勝利したため、得票率に見合った30議席を獲得した例がある。

超過議席と調整議席があるので、最終的な議席数は分からないが、ドイツでは連邦レベルでも州レベルでも連立政権が常。連立を表すのに大体政党の色を使う。SPDは赤、CDU・CSUは黒、緑の党は緑、FDPは黄色、そして左翼党は赤。SPDも左翼党も赤なので少しややこしい。左翼党の後退によって、恐らくSPD・左翼党・緑の党の赤・赤・緑 (rot-rot-grün) 連立は過半数にならないので無理。そのためSPDとCDU・CSUの大連立か、SPD・緑の党・FDPの政党色が赤と黄色と緑になる信号連立 (Ampel-Koalition) か、それともCDU・CSU・緑の党・FDPで黒・緑・黄色でジャマイカ国旗の色が揃うジャマイカ連立 (Jamaika-Koalition) かになる。SPDもCDU・CSUも大連立に否定的なので、3政党による連立が大方の予想。政策面ではSPDと緑の党は親和性があるが、FDPと距離がある。逆にCDU・CSUとFDPは政策面で共通するところがあるが、緑の党と隔たりがある。本当に僅差なら別だが、明らかにSPDがCDU・CSUを上回った場合は、まず信号連立の協議になるのではないかと言われている。これから紆余曲折がありそうだが、ドイツの政治・社会・メディアはこのような政党間の交渉と協議には慣れているので、そう焦ることもないだろう。

どんな政権が誕生してもドイツ、ヨーロッパ、そして世界にとって、メルケル氏の時代が終わることに変わりはない。