トースターを買う

家にフォア・グラが一瓶ある。もちろん湧いてできたわけではなく、パリで買ってきたという。

フォア・グラを食べるのにはパン・ド・ミ(pain de mie)が必要となるらしい。そしてこのパンはトースターで焼かなければいけない。家にトースターはない。再来週お客さんが来るので、それまでにトースターを見つけなければ。

それから数日、インターネットの時代でも毎週、マンションの正面玄関にちらしが山となっている。新聞がついてこない、新聞の折り込み広告と呼べばよいだろうか、色華やかな紙の上に、「今週の特別商品!」と宣伝文句がフランス語とオランダ語で並ぶ。普通ならサッとめくり、再資源ゴミ用の箱に捨てるのだが、トースターがないか見る。

ベルギーにはフランスやドイツ資本のスーパーが展開している。フランスのスーパーの場合は、郊外大型店(hypermarché)が多く、逆にドイツの場合は町の中あるいは近郊の中型店舗で安売り指向。

2店目か3店目の広告に、トースターがあった。ドイツ系の Aldi だ。€9.99という。

一番近い店舗は歩いて25分程、天気もよく、散歩にもなるので、買い物袋を持ち、外に出る。公園で上半身裸の日光浴をしている人たちの間を歩き、トースターを買いに行く。

ドイツのスーパーの Aldi や Lidl はいかにも「安い」と感じる店内。薄暗く、陳列も乱れ、子供の泣き声やだだを捏ねる声に、疲れと怒りが混ざったような答えをしている母親の声が聞こえる。嫌いな場所ではない。トースターを探す。

まず入ったら酒売り場。「これを飲んだら二日酔いは避けられないだろう」という蒸溜酒が並ぶ。野菜と果物が数種類、肉も加工されたものが中心。店は暗い。冷蔵庫が、あの不気味な冷蔵庫らしい音を出している。

店のほぼ真ん中にある、施錠された陳列棚には、聞いたことのないメーカーのノート型パソコンが3台。となりには無造作に置かれたスーツケース。そして通路を阻むスーツケースの隣にあった。€9.99のトースター。青の箱に白いトースターの写真が載っている。

他に買うものもないので、レジで並び、支払い、家へ戻る。3年間の保証付き。さてパンは無事に焼けるのだろうか⋯⋯。