中東・北アフリカ情勢

エジプトの混迷

エジプトの政情が非常に不安定、そして国の先行きが不透明となっている。モルシ前大統領を支持するムスリム同胞団を中心としたデモ隊の強制排除で、多数の人々が死亡している。このような事態は、モルシ前大統領が軍によって排除されたときから、ある程度予想されたことだろうが、これだけ大規模なデモが続き、情勢が緊迫すると、エジプトの中東全体における重要度もあり、世界の関心も集まる。ニュースを観たり、新聞を読んだ限り、エジプトの暫定政権とムスリム同胞団が、政治プロセスについて合意できるような気配はない。しかし、ムスリム同胞団や系列の支持政党を政治から排することは、すなわちエジプト国民の多くを政治から締め出すことになる。つまり、今後エジプトの政府そして国家は、国民の一部を敵に回しかねない。徹底的にムスリム同胞団を弾圧すれば、内外から非難されるだろうし、ムスリム同胞団は歴史的に弾圧されたこともあるので、弾圧に抗しうる組織力もあるだろうから、徹底的に抵抗するとなれば更に状況が悪化する可能性がある。

この次、どうなるか、予想はつかないが、先のモルシ前大統領の排除は、軍のクーデターによる政権交代であったことは否めない。そのため、エジプトの民主主義という実験は失敗に終わったという意見もあるだろう。厳しい意見かもしれないが、あっているように思う。しかし、革命が独裁政権を倒したのち、すぐに安定した民主主義国家を築くことは稀だろう。ムバラク政権という旧体制の打倒では一致していても、その後、どのようなエジプト国家を作るのか、様々な将来の国家像があり、必然的に新政権を支持する人々と反対する人々に分かれ、バラバラになってしまう。もしモルシ前大統領の国家像が拒否されたとなれば、今後多くのエジプト国民に支持される、あるいは反対しても武力で抵抗されることのないような、国家像を提示できる指導者が現れるだろうか。

常々、民主主義国家の証は、自由かつ公正な選挙で政府が選ばれることにあるのではなく、自由かつ公正な選挙で前回選ばれた政府が、自由かつ公正な選挙で敗れた場合敗北を認め、問題なく平和裏に勝者が新政府を樹立できるかどうかにあると思っている。もちろん選挙で政権が勝った場合は、敗者が敗北を認めるかどうか。つまり選挙による政権交代が実現した、あるいは実現しうるか。その意味では、今回のクーデターは、エジプトの民主主義にとって、数歩後退というところだろう。あまりにもモルシ前大統領の政権が酷く、軍が民意を汲んで仕方なく介入したのであり、クーデターではないという主張もあるだろうし、その主張が今回の変革を正当化しているが、法治国家でもあるはずの民主主義国家では通常、選挙以外でも例えば弾劾など法に則った方法で大統領を退任に追い込めるはず。そうではなく、軍が大統領を排除し、それが正当化されるならば、これは今後悪しき前例として残るだろう。将来、軍が再び民意を汲んで、あるいは民意を汲んだと称して政治に介入することがあるかもしれないので、文民統制の面からして非常に危険。また、政府に反対する人々は選挙に訴えるのではなく、政府打倒を軍に働きかけようとするかもしれない。そして直接介入せずとも、文民政府は軍の動向に注意を払う必要があり、自らを束縛することになるだろうか。

これからエジプトはどのような道を歩むだろうか。事実上の軍事政権となるだろうか、それともエジプト国民の多くの支持を取り付けることのできる文民政府が現れるだろうか。アラブの春が遠い昔のようにも見える。