欧州財政危機と仏大統領選挙

2012年5月6日

財政赤字の中の不況という状況においてなすべきことは、国つまりは財政出動による景気の梃子入れ、あるいは緊縮財政により財政健全化という考え方に分かれるだろうか。経済学者の間でも、景気と財政赤字どちらがより重要課題であるか、意見が割れているよう。そして財政出動を行うのであれば、財源をどのように確保するのかが課題となる。ヨーロッパの国々は、これまで、主に緊縮財政で、現在の危機を乗り越えようとしてきた。アイルランド、ギリシャ、イタリア、ポルトガル、スペインなどでは、痛みの伴う構造改革を押し進めている。ユーロ圏外の英国も、緊縮財政で財政赤字を減らすことが、現在の保守・自由民主連立政権の政策の柱となっている。ここ数年、不景気によって、税収が減り、社会保障費が増加したこともあるが、ヨーロッパの国々の多くでは、構造的財政赤字削減が必要と言われている。

ユーロ圏では今後、どのような展開となるのか、分からないが、財政は危険な状況にあることには変わりはない。欧州中央銀行がすでに切ったカードは低金利政策。欧州中央銀行は、連邦準備制度理事会や英国中央銀行のように大々的な量的緩和を行なっていないので、今後量的緩和政策や大規模なユーロ圏国の国債買取やユーロ圏共同債発行の可能性もなくはないだろう。しかし、これは構造改革をすでに行って、昨年2011年の対国内総生産比の財政赤字率が1%だったドイツの合意が必要となる。

これまで、流れとして、構造改革による構造的財政赤字削減の後に、財政出動があると思っていたが、政局を見ると、どうやら、構造改革ではなく、財政出動優先ともなりそう。しかし、現実的には大々的な財政出動は無理だろう。構造改革なしでは、例えば量的緩和政策やユーロ圏共同債発行にドイツが合意するとは思えないし、また市場の反応も良くないだろう。現実的かどうかは別として、ヨーロッパで行われている選挙では、与党で財政再建政策を行なっている政党が支持を失っているのも事実。これは、最近のオランダの首相辞任、フランスの大統領選挙、ギリシャの総選挙、ドイツの州選挙、そして英国の統一地方選挙、いずれにも当てはまる。有権者が求めるものと、市場が求めるものに大きな差があり、民主主義国家において、最終的に誰が財政政策を定めるのか、今後より大きな問題となって表れるかもしれない。

フランスの大統領選挙で当選確実と報道されているオランド氏は選挙戦中、一時、財政規律を定めた合意についてドイツと交渉する旨を表明していたが、第1回投票と決選投票の間ずっとリードを保ったためか、どうやら求めないようだ。もちろん、ドイツが合意するとは思えない。また、ギリシャ総選挙では、財政再建を担っていきた与党が惨敗し、極右・極左政党が支持を伸ばした模様で、財政危機は民主主義の危機に至るのではないかと囁かれている。オランド氏当選により、ヨーロッパ全体で量的緩和やユーロ圏共同債発行や欧州中央銀行による国債買取や財政出動の声が強まるだろうが、前述通りすでに構造改革を行ったドイツや比較的財政が健全な国々は、まず財政規律を求めるだろう。そして増税なし、ユーロ圏共同債なし、欧州中央銀行の国債買取なしでは、フランスなどヨーロッパの国々が、個別に多額の国債を発行したとしても、利回りが上昇するだけとなる。

ちなみに、数字を表面上見るだけだと、フランスの財政状況はあまり良くない。昨年2011年の対国内総生産比の財政赤字率は5.2%で、例えばイタリアの3.9%より高かった。そしてフランスの政府はすでにかなり大きい。対国内総生産比の政府支出率は55.9%と、欧州連合加盟国ではデンマークに次いで2位の規模。しかし、北欧諸国のように、歳出と歳入のようにバランスが取れているわけではないので、景気回復だけで財政出動を賄えることはできないだろうし、国債発行にも限度があり、市場の信用を得られる政策があるのか疑問。ギリシャとアイルランドの後に、ポルトガル、イタリアとスペインと不安が広まったが、次に危ないのはフランスだという意見を何回も聞いたのも何となく頷ける。

政治的にしたいことと財政的にできることに差があり、政治的にできることは財政によって限られている。特に国債発行つまりは市場に頼らざるを得ない状況では、財政政策の余地が少なくなる。政権にとっては、有権者よりも格付け機関の方が怖いのかもしれない。これから、政治のリーダーシップとは、国民の期待に応えながらも、市場の信用を失わない綱渡りにあるだろうか。オランド新大統領がそのリーダーシップを発揮できるか否かは、フランスとユーロ圏の将来にとって非常に重要となるだろう。