ドイツ・ウルフ大統領辞職

2012年2月17日

ここ数ヶ月、ドイツ人の友人との会話に頻繁に登場したのが、ウルフ大統領。ほとんどの友人が、「まだ辞めないのか」あるいは「いつ辞めるのか」と言っていた。ドイツの大統領は儀礼的な役割を果たすので、政治的権限はさして強くないが、それでもドイツ連邦共和国の国家元首。それなりの品性と威厳を要するのだが、多くのドイツ人にとって、ウルフ氏は「恥ずかしい」存在となっていたようだ。

ウルフ氏は大統領就任前の2003〜2010年はニーダーザクセン州首相だった。現在問題とされているのは、この時期に受けた便宜供与の数々。例えば、2008年、ウルフ氏は、知人の実業家の夫人名義から、自宅購入のため、4%という低利かつ無担保で50万ユーロの個人融資を受けた。さらに昨年12月、自宅購入用の低金利の融資の問題を報道しようとした新聞社の編集部に、ウルフ氏は電話でこの件について報道しないようにと、圧力をかけていたことも明らかになっている。これはあからさまな圧力と批判を浴びたし、事実上の憲法である連邦基本法に抵触する可能性もある、と法曹界の一部から指摘されている。他にも側近だった報道官のロビー団体との癒着とその件について州議会で虚偽の答弁をしたこと、また旅行先で実業家や有力者の家に無料で滞在して便宜供与を受けたことが追及されている。

次から次に疑惑が浮上していたが、昨日2月16日、ハノーファー検察庁が、大統領の不逮捕特権を取り消すように連邦議会に申し立てた。もはや出身政党のキリスト教民主同盟からも辞任を求める声があがり、結局辞職に追い込まれた。報道によると、検察庁が問題視しているのは、州の映画産業助成の一環として、知人である映画制作者の会社の借入金400万ユーロを2006年に州が保証した見返りに、その制作者から2007年10月に滞在した高級ホテルの宿泊費を「肩代わり」してもらったこと。ちなみに、ウルフ氏は、現金でこの映画制作者に滞在費を払ったと答えいて、他の疑惑についても違法行為は行っていないと主張している。

ウルフ氏の辞職はメルケル首相にとっても打撃。ドイツの大統領は連邦会議(Bundesversammlung)にて選ばれる。連邦会議を構成するのは、連邦議会(Bundestag)の議員、そして連邦議会の議員数と同数の各州議会の代表。州議会の代表の数は州のドイツ国籍保有者の人口によって決まり、各州で比例代表で選出される。現在のところ、連邦会議を構成するのは計1240名。そのため、政党間の駆引きともなる。前任のケーラー大統領も任期途中で辞職し、その後にメルケル首相の強い支持を得たウルフ氏が、第3次投票でようやく大統領として選ばれた経緯があったので、メルケル首相を批判する声もあり、次期大統領は超党派の人物を推すべきという意見も強い。だが、計算によれば、キリスト教民主・社会同盟と自由民主党が1240の半数を超えるので、連邦レベルでの連立政権の与党間合意があれば、メルケル首相は次の大統領を事実上決めることができるので、これから与党内で意見の集約があるだろう。