KYな首相

2009年6月16日

KYで「場の空気が読めない」ということらしい。対人関係の場で一般的に用いられるが、この項でのKは政治的な「機」が読めないという意味。日本の麻生首相、英国のブラウン首相、両者ともこの意味でKYであるように思える。

日本や英国の政体は議院内閣制と言われるが、やはり首相の力は内閣の中でも強い。首相のいわゆる「専権事項」の中でも、大臣の任命権(と罷免権)、そして解散権は非常に重要で、首相の権力の拠り所。しかし与党内での求心力の低下や支持率が下降気味だと使えず、首相の力不足が明らかになる。

麻生首相、ブラウン首相、両者とも前任者の辞任を受け、総選挙を経ずに首相に就任した。内閣発足後、支持率は浮揚し、選挙に打って出る術もあったが、結局有耶無耶になってしまった。これは勝利という可能性が高くても、与党の議席が減ることはほぼ間違いなかったところもあるだろう。ただ好機であったことには違いない。

解散権は諸刃の剣でもある。解散権をうまく利用すれば、与党に有利な時点で総選挙を戦えるし、選挙の争点も明確となる。しかし使わなければ、戦えば負けると国民の審判を恐れているとも思われてしまい、政権の自信喪失を象徴してしまう。そして弱い首相は与党内の支持を取り付けられずに解散権を行使しようとしたら、党内から不信任を突きつけられる可能性もある。いま麻生氏もブラウン氏もかなり弱い立場にある。

無論、今の経済状況において、政府・与党の立場は厳しい。政策別に見れば、日本の定額給付金や英国の消費税期間限定減税など、果たして景気回復に本当に役立つか疑問視されているのもあるが、大まかに見れば、麻生政権、ブラウン政権、両政権とも経済の舵取りでは一定の評価を受けている。ただ、国民の感覚からすると、失業率増加など、あまり良い材料が見つからないのも、支持率が回復しない理由の一。

任期満了まで待つのも一案だろうが、何せ自分に有利な時機を選べないので、主導権を握ることが困難。経済状況が良くなる保証もなく、突発なスキャンダル発覚ということもある。そして勝てないから最後の最後まで政権に居座り続けたとも思われてしまう。また、現在選挙に出たら負ける現職議員が多いと、できるだけ長く残りたい、これから先は政局が有利になる、それともこれ以上ひどくなるまい、などという考えがあってもおかしくない。

首相と内閣の力学関係も微妙。強い首相であれば、任命権と罷免権を使い、内閣をバランス良く保つこともできようし、立場も安泰している。しかし、弱い首相だと、強力な大臣を罷免するどころか、内閣改造も儘ならない。しかしそれ以上に危険なのが、大臣になることを拒む政治家が多く、組閣が困難となった場合だ。

ブラウン首相は最近、地方選挙と欧州議会選挙での労働党大敗と閣僚の辞任が続き、政権維持が危ぶまれた。麻生首相も鳩山氏の辞任・更迭のドタバタ劇で、優柔不断の印象を強くして、支持率は再下降気味。

臨機応変に主導権を握れるかどうか、それは政治家として成功するか失敗するかの試金石。これが KY だとできない。麻生首相もブラウン首相も任期満了までに、再び攻勢に出られるだろうか。それとも、KY 首相のままに終わるのだろうか。