天皇の政治利用 | 1

2009年12月11日

英国王の立場は「君臨すれでも統治せず」であり、政治介入はしないし、政府も国王の政治利用はしない。これは選挙で選ばれない世襲制国家元首と、民主的に選ばれた政府の行政府の責任を明確にするため。大原則はあっても、完全に明確な線引きはできないため、誰が何をしても良いのかダメなのか、個別に法令や慣行が必要となる。日本も英国と似た立憲君主制・議会制民主主義国家なので、同様な原則が存在する。

12月14日に中国の国家副主席が来日するが、そのさいに今上天皇との会談を政府がセットしたという。これは最低1ヶ月前までには会見要請を行うという2004年以来確立された慣行を覆すものであり、政府は特例として認めるよう宮内庁に対し強く要請したと報道されている。一時は拒否した宮内庁だが、政府の再三の要請に折れたようだ。

これは政府の誤断であり、宮内庁は民主的に選ばれた政府の意向には抗しきれないことを知ってのこと。間違っているのは慣行を破るだけの理由が見つからないことにある。つまり1回破っても慣行はまだ効力を失していないと言えるほどの緊急事態でもなければ、中国国家副主席は国家元首でもない。これは政府の「この会談は慣行に関係なく重要」という判断に基づく天皇の政治利用で、非常な問題。今後、この前例のため、他の国の要請も「1ヶ月以内だから」という理由では拒否しづらくなる。

このような慣行無視は国と政府の信用を損ねる。慣行は一貫していなければ、存在しないと同等になってしまうので、成文法令よりももっと気をつけて、いわば杓子定規に適用されなければならない。政権が交代して政策を変えても、ルール自体をルールに則って変えないかぎり、基本的なルールは変えないのが原則のはず。この点を守らなければ、鳩山政権はこれからさらに外交でいろいろな問題に直面するだろう。