鉄道とローマ街道

2012年5月26日

記憶の糸を手繰っても出典を思い出せないのはだめな話なのだが、「鉄道とローマ街道は似ている」という主旨の文章をどこかで読んだことがある。5月も下旬になって、ロンドンでは、雨降り肌寒い日が続いた4月が嘘のように、晴れて暑い日が続いている。先日、あまりにも暑苦しくなったので、電車に飛び乗って、ロンドンから1時間ほどでほとんど真南にある、海辺のブライトンに行ってきた。過ぎ去る車窓を眺めていたら、鉄道とローマ街道の共通点を見たような気がした。

人間、ロバ、馬、車なら、結構な勾配やカーブでも大丈夫だが、鉄道に急勾配そして急カーブは無理。そのため、鉄道はできるだけ平、そしてできるだけ真っ直ぐに敷設される。高さを調節するために土を盛り、丘や山があればトンネルを掘り、谷や川があれば橋を架けるというように。ローマ街道も同様に平で真っ直ぐ、自然環境に合わせるのではなく、自然環境を超えるような人工物だった。ロンドンからブライトンまでの路線にはトンネルがいくつもあり、また長さ450メートル、高さ29メートルの陸橋(Ouse Valley Viaduct)もある。1841年に完成して、今でも毎日約110本の電車が走るのだから、ヴィクトリア朝時代の英国の建築技術の良さを物語っている。その頃の英国人は、世界帝国を築き、自分たちをローマ帝国の後継者と自負していたところもあった。だから鉄道は近代のローマ街道という考えもあるのだろう。