フランス語に sortir du bois という慣用句がある。直訳すれば「森・林から出る」だが、アカデミー・フランセーズ (Académie française) の辞書(2024年・第9版)に dévoiler ses intentions と定義されていて、意味は「意図を明確にする」だ。言い換えれば「態度を明らかにする」や「旗幟を鮮明にする」などに相当する。ちなみに1935年・第8版には記載されていない表現。
英語に be out of the woods という似た表現があるが、意味は「危機を脱する」または「難題を解決する」でフランス語と異なる。多くの場合、否定形の not out of the woods (yet) で用いられ、つまり「危機的状況を脱し(きれ)ていない」や「難題がまだ未解決」でニュアンス的に「予断を許さない」状況を指す。
意味は違えど、森林が暗く不明瞭なところ、あるいは危険な場所、というのはどこか共通していると言えようか。
フランス語で sortir du bois という表現が「意図を明確にする」であれば、否定形の ne pas être sorti du bois は「意図を明確にしていない」になるはずだが、英語からの翻訳借用として「予断を許さない」という意味で使われている。アカデミー・フランセーズの辞書では、口語として sortir の項に挙げられていて、同義の on n’est pas sorti de l’auberge を参照せよとある。英語からの借用に非常に厳しいケベック州フランス語局 (Office québécois de la langue française) も、口語であると但し書きで強調したうえで、正しいフランス語として認定している。
現在では意味が異なる sortir du bois と ne pas être sorti du bois が、今後どのような意味で使われるようになっていくだろうか。どちらか一方が廃れるのか、現在のように肯定と否定で違う意味で併用されるのか。もう後者であれば、混同されることもあるだろうか。